心の病気は誰でもかかる可能性があります!
   ストレス要因の多い今日、心の健康を守るにはどのようにしたらよいのでしょうか?「心の病」の診断名と治療、そしてメンタルヘルスの増進をめぐって、いろいろの角度から取り上げてみました。

【神経症をめぐる日本とアメリカ】
  精神科の病名は複雑で、医師仲間でも使い方が微妙に違うこともあるので、患者さんや家族が戸惑うことも多いと思われます。
心因性疾患というのはいいかえれば神経症=ノイローゼです。これを大きく分けると、「性格神経症」といって症状の形成に個人のもともとの気質−性格がかかわることの大きいものと、「状況神経症」といって個人をとりまく状況(およびその急激な変化)が症状形成に大きくかかわるものもあり、そのなかには「反応性精神病」とよばれるものもあります。しかしすべての症例で性格と状況とがともに関与しているのは当然で、そのなかでどちらの関与が大きいかということなのです。

●性格神経症
例:心気神経症、神経質症、不安神経症、強迫神経症、恐怖症、抑うつ神経症
●状況神経症
例:神経衰弱、ヒステリー、反応性うつ病、妄想反応

特に「神経症」については、もともと分類が混乱していたうえに、アメリカの精神医学会が作った新しい診断基準(DSM−3−Rとよばれる)には「神経症」という診断名自体が抹消され、世界保健機関(WHO)の国際的な診断基準(ICD−10)でも同じ方針が取られたので、具体的な用語がずいぶん変わりました。ですから、みなさんが外国の本の紹介などをお読みになりますと、かなり混乱した印象をお受けになるかもしれません。
しかし実際には、いわゆる「神経症」そのものが本質的に変わったわけではありません。これまでの分類は、神経症という大きな枠を作って、そのなかで症状に従って診断名をつけていました。今度の国際分類では、症状を細かくとらえて、それぞれまとまった単位として扱うことにし、それらをまとめて神経症とよぶことはしない、という方針です。しかし、この方法にも一長一短があります。また少なくとも日本では、神経症という用語が今後も長く用いられると思われます。

      ■主な神経症と特徴■
   
神経衰弱

精神的な疲労や全身倦怠感、集中力の低下が起こります。
強迫神経症

戸締まりが気になるなど、ある観念にとらわれます。
恐怖症

高い所・狭い所・広い所・とがった物を異常に恐れます。
ヒステリー

全身けいれんやまひなどが起こります。
心気神経症

軽い体調の変化を重病と思い込むようになります。
不安神経症

突然、原因不明の不安に襲われます。
離人神経症

自分や周囲に対して現実感を失くします。

  【人間にとって心と身体がすべての基本です】
  誰にでも、身体の好・不調の波があるように、心についても同じことがあるのです。
「心」も「身体」と同じように考えればよいのです。
一般的に、心の問題を必要以上に重大に考え過ぎることがあるかと思うと、逆にあまりにも無関心過ぎるところがあります。そして、、日ごろの無関心、放置のつけを「アガリや肩こり、高血圧、イライラ、集中力の欠如、寝つきの悪さ、頭痛」などの、さまざまな身体不調や病気の症状という形で支払っている可能性が強いのです。
さらに、これらの身体の不調が進展して、家庭や職場で人間関係がおかしくなったり、重大な事故やつまらないミスを犯したりすることがあります。また、能力の開発の悪化や老後の健康不安などにつながっていくことも充分考えられます。
人間にとって「心と身体」はすべての基本ですから、いつも良好な状態に保つようにすることが必要なのですが、病気という重大問題が発生しない限り、あまり関心が持たれません。それでも身体の健康については、運動をしたり、塩分を控えたり、野菜を充分に食べたりして日常的に注意しています。
しかし、心の健康については、身体に払った注意に相当することは何もしていません。どうかこの事実に気づいてください。
◆神経症◆
  一般にノイローゼとして知られている神経症は、心理的な原因によって起こる心の病です。したがって、幻覚や妄想が起こったり、行動の判断基準を大きく逸脱して周囲からの保護を必要とする精神病とは、基本的に質が異なります。しかし、本人の苦痛が大きく、表面化した症状も激しい場合には、専門医の診断と治療が必要です。
 ●原因●
  個人差はあるが、いずれも環境的なストレスで発症
神経症を引き起こす心理的な要因は、個人個人によってそえぞれ異なっています。しかし、いずれにしても家庭内のトラブルや対人関係のトラブル、仕事上の悩みや葛藤など、自己をとりまく環境の中で受ける心理的なプレッシャーが引き金になって、不安感や恐怖、抑うつ感などを起こす点で共通しています。
したがって、ものごとにこだわりがちな人、神経質でつねに周囲の目を気にする人、くよくよと思い悩む人、心配性の人、自信がなく自己の判断を持てない人、対人関係が少なく人間関係が上手に結べない人などがかかりやすい病気だといえます。

  【人間関係とメンタルヘルス】
  「心の病」に至らなくて、不安、困惑、悩みなど、誰にも起こる「心の負担」を対象に、メンタルヘルスの支援体制が望まれます。企業によっては専門家によるカウンセリングや治療、配転や復職の相談を行ったり、自己のストレスへの「気づき」に関する講習会の実施など様々な試みが行われています。
企業内での相談が難しい場合には、早期に精神科クリニックにかかるなり、かかりつけの医師から適切な医療機関を紹介してもらう方法もあります。気軽に相談できる体制が社会的に整うことも必要ですが、各個人が早めに受診することが大切です。
私たちを取り巻く人間関係における不調はさまざまな形となって現われ、身体や心にいろいろな影響を与えます。
夫婦関係における人間関係の不調は、最後には「離婚」という悲惨な結果を招き、本人同士はもちろんのこと、子どもの心までも深く傷つけてしまうことになります。また、学校では「いじめ」という社会問題を生み、職場ではチームワークの乱れにより、不良品が増えたり、事故やノイローゼの発生原因になったりするのです。
事件や事故が表面に現れると、学者、先生方は「家庭が悪い、社会が悪い、時代が悪い、競争が悪い」などと、問題点を羅列します。
人間という動物は、とても保守的で臆病なので、間違っていることでも習慣化されていると平気でいられるものなのです。
残念なことに「メンタルヘルス」の領域にもこの傾向がみられるのです。
人間は社会的動物といわれるように、人間の中でしか生きられません。非常に乱暴ないい方をすると、人間は「肉体(フィジカル)」と「精神(メンタル)」でできています。したがって、どのような微細な行為や行動も、「肉体」の好・不調と「精神」の好・不調の影響を受けていないものはありません。
肉体的には病気ではないが、体調のよくないときには、どのようなことについても、活力が低下します。同様にメンタルの領域でも、病気ではないが、あまり調子がよくないと、その人のあらゆる活動面に強い影響がでてきます。
職場や学校、地域社会における人間関係も「100人いたら、100人とうまくやろう」などというような、硬直的な考えを持ち、「もし、うまくいかなかったらどうしよう」などと、いつもオドオドと緊張していたなら、決してうまくいくはずがありません。硬直的に考えること、緊張することに問題があるのです。「ウマが合わない奴がいてもしかたがないことさ」というくらいの余裕のある精神状態を維持することが肝要なのです。
とはいえ、「余裕のある精神状態を保つ」ことが、人間関係をスムーズにする、と理屈でわかっていても、実際にはなかなかうまくいかないのが現実的です。
◆予防と生活上の注意◆
  一般的に、健康的な生活を送っている場合には、ビジネスとプライベート、緊張と弛緩など、生活に一定のリズムを生み出しています。一方、神経症になる人は、目の前の葛藤やトラブルにとらわれ、思いつめる傾向にあります。
したがって、仕事と休息の区別をつけるときには運動や音楽で心身のリラックスを図るなどして、ゆったりとした気持ちをもつように心がけ、「心理的なプレッシャーも、生活の中のほんの一部分である」と考えて、積極的に受け入れる余裕を持ちたいものです。


ご不明な点は最寄りの医療機関にご相談ください。