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医師会の概要

峡南地域の医療体制への提言

山梨日日新聞掲載 『峡南地域の医療体制への提言』 峡南6病院院長会議

市川三卿町立病院 河野 哲夫

社会保険鰍沢病院 中島 育昌

峡南病院 小川 伸一郎

組合立飯富病院 長田 忠孝

しもべ病院 西尾 徹

身延山病院 丸山 敦

山梨県内で、過疎と高齢化の最も進んだ峡南地域の医療と福祉が危機的状況に瀕しているが、実際に現出している状況は峡南北部と中南部とでは様相を異にしている。
北部の社会保険鰍沢病院と市川三郷町立病院は山梨大学医学部の医師引上げによる医師不足がこの現況の主因だが、鰍沢病院は社会保険庁の制度改定に伴う近い将来の存続の不透明さを併せ持っている。
中南部の飯富病院と身延山病院は山梨県による自治医大卒業医師の派遣病院であり、医師数は、現状では北部に比し著しい不足はない。問題は、山梨県下第一の人口減少地域にあることである。
昨年12月、総務省は公立病院改革ガイドラインで、数値目標を定め、公立病院に1.経営の効率化、2.再編ネットワーク化、3.経営形態の見直しの3点を迫っている。山梨県でもこれに基づきすでに平成20年度中の公立病院のネットワーク化等の策定計画に着手している。
このように状況のなかで、峡南地域の過去と現在にこの地に存在し、保健、医療、福祉を担ってきた峡南6病院の院長として、今後のこの地域の病院医療の在り方と地域医療の確保の対策を協議、考察し、以下の5点につき提言し、公表するものである。
1.
峡南北部の社会保険鰍沢病院と市川三郷町立病院の2病院にみられる医師不足を早急に解決することは可能か?
現在全国的にみられる医師不足は医師養成の量的、質的失敗が原因である。先進国でも最下位に近い量的不足はすでに論じられてきたので、ここでは質的失敗について述べる。
現在ほとんどの大学医学部で養成される医師は臓器別、疾患別の専門医である。このことが現状の医師不足の一方の原因である。高度な臓器別、疾患別専門医の集団であり、かつ独立採算制となった大学病院を持つ大学。そのような大学から派遣される、臓器別、疾患別の専門医が、100床前後の病院に不要だといっているのではない。私たちの規模の病院に必要なのは地域と住民に必要な、医療と福祉を理解できる地域医療の専門医なのである。
臓器別、疾患別専門医と地域医療専門医を併せ持つ医師は大歓迎であるが、そのような医師はごく限られて少数である。外科の専門医が地域医療の専門医をかねていたりすると、佐久総合病院の様な施設ができたりすることもある。それほど有名でとっぴではなくとも、呼吸器内科や循環器内科の専門医と地域医療の専門医を兼ねた内科医など簡単なようだが現実は異なる。
そのような現状を是認することはできないが、それが現実であり、地域医療が主になる我々の様な病院には臓器別、疾患別医師は派遣され難いであろうとの理由である。
さいわい、今年から山梨大学に地域医療学科が新設された。地域医療を志す若手医師の誕生が期待されるわけだが、順調にいっても最初の医師が我々のもとに派遣されるまで8年以上を要するのだ。
以前よりおこなってきた、県立中央病院を管理型病院として、我々のような県内の中小病院が協力病院となり、地域医療の専門医を育てるべきだとの主張は、このような理由からである。
今からでも遅くない。我々県民のために働く地域医療医を育てようではないか。
これが第1点の答えであり、提案であり、残念ながら最も有効な対策である。
2.
過疎と高齢化時代への対応
社会保険庁の今後は現時点でも、極めて不透明である。当然のことながら、鰍沢病院は今後も、今までと同じように峡南北部の地域医療、災害拠点病院、感染症指定病院を担って、存続するのであろうかという問題が浮上してくる。社会保険庁の改革に伴い、経営主体が独立行政法人に移管されるとも聞くが、定かではない。
この病院の存在なしに峡南の医療、福祉は語れないとは、我々を含めた地元医師会、地域住民の結論である。関係官庁は早急に今後の方向を決定し、住民や我々に示すべきである。
再度言う、病院の規模、立地条件からいっても鰍沢病院の存続なしに、峡南の医療の再編、ネットワーク化は語れない。
3.
過疎と高齢化時代への対応
峡南の中南部ことに中部は、県内でも過疎と高齢化が最も進んだ地域である。ここにある、組合立飯富病院と身延山病院には山梨県より自治医大出身医師が派遣されている。この2病院には不十分ながら、峡南北部のような著しい医師不足はない。したがって、総務省のガイドラインにある不採算地区に存在する病院にもかかわらず、経営的には安定している。
問題は将来予想される人口減少である。10年後に身延町は人口1万を維持できるだろうか。リハビリテーションを中心に置いた特徴ある病院経営を目指している、しもべ病院も含めて、この地域 に存在する3病院の再編化は避けては通れないほどに、人口減少は進行すると予想される。
身延山病院が行っている南部町への診療援助や、飯富病院の12か所の出張診療所への医師派遣をとってみても、不採算部門が拡大することが予想され、急性期,一般病床の集約等の経営形態の見直しが峡南中南部全体に必要になると考えられる。10年後の現在ある身延町内の民間クリニックの存続も考慮し、住民の医療福祉を維持するための方策を今すぐ開始すべきである。
4.
地域医師会との関係
峡南地域には南巨摩郡医師会と西八代郡医師会が存在する。民間開業医師と病院医師は対立するものではなく、共存するものである。この当たり前の原則を医療危機の時代に再確認する必要がある。
たとえば厚生労働省が考えている在宅医療を開業医師に任せる案をとってみても、一人でクリニックのすべてに責任をとらねばならない開業医にその業を担えるはずはないのである。開業医のネットワークを作るにしても需要が高じてくれば、開業医だけで行えなくなることは容易に予想がつく。ことに峡南の様な過疎地域ではクリニックの数も少なく、担当しなければならない面積も大きくなり、困難性もより高くなるのではないだろうか。
それよりも、病院のベッドのオープン化はどうだろうか。一般病床でも介護病床でも、開業医師に開放するようなシステムはすぐにでも検討に値すると思うがいかがだろうか。
いずれにしても開業医と病院が今以上に共存共栄することが医療の危機を乗り切るためには必要なことと考え、提案する。
5.
中部横断道の整備
峡南医療圏を縦断して建設が予定されている中部横断道は、県央や静岡の医療圏を結ぶ意味でも極めて大切な道路である。地震や重大災害に強い横断道は甚大な被害が予想される東海地震の発生にも、通常の救急救命用の道路としても峡南地域住民の命を守る大動脈である。特に静岡県に突出している南部町には入院施設がなく、中部以北の病院や夜間急病のための施設が南部町民の役に立つためにも、ぜひ早期の整備をお願いしたい。
峡南にある6病院には6種類の貴重な特有の歴史がある。共通することは常に住民とともに、地域と共にあったことである。病院間のネットワーク化は必要であろうし、経営の効率化は必須であろうが、整理統合され、廃止されてよい病院など一つもない。
この時にあたって、決して容易な将来があるとは思っていないが、今まで、この峡南の地で地域の皆さんとともに歩んできた6病院からの連帯を求めるメッセージを正面から受けとめてくださることをお願いし、結語とする。

当記事は山梨日日新聞に掲載したものです。

また、当サイトへの掲載は山梨日日新聞の許諾済みです。

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