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医師会からのお知らせ

第29回健康と医療作文コンクール

優秀賞

「温かい地域医療と、その未来」
大野 桜
甲府南高校2年
私には101歳になる曾祖母がいます。デイサービスなどを利用しながら、一人暮らしを続けています。耳が遠い曾祖母とのやりとりは大抵FAXです。私が裏面を間違えてFAXしてしまった時も、「裏が届いたから、もう一度今度は表面で送ってごらん」と電話がかかってきて驚いたこともあります。
曾祖母は、趣味の手芸でミシンを使ったり、書道の大会にも「米寿」と書いた作品を出品し地元の新聞にも載せてもらうほど元気です。そんな曾祖母が、いつも笑顔で毎日を過ごせる長生きの秘訣は何だろうと考えた時、それは温かい地域医療ではないかと私は思いました。曾祖母は、自立した生活を送っていますが、けして孤独ではありません。私の祖母や祖母の姉や妹、近所の方がいつも遊びに行き様子を伺っています。また週に2回はヘルパーさんが、食事の支度や掃除など家事を手伝いに来てくれます。そして地域の医師に見守られています。長く住んだ自分の家で、自分らしい充実した生活を送る曾祖母を見て、私は何歳になってもその人らしく、その人の価値観や尊厳を大切にしながら見守られることの重要さを知りました。それが自立や長生きにつながるのではないかと思います。
これからの日本は人口減少に伴い、少子高齢社会へと向かいます。そして貧困と格差が拡大していきます。特に、私の住む山梨もそれが大きく影響してくるのではないかと思います。その中で僻地の医師不足は慢性的な医療の課題です。私は医療に興味を持ち、地元の病院の医師体験に参加しました。そこで感じたことは、患者さんに関わるメディカルスタッフの連携がとても重要だということでした。チーム医療で共に悩み意見し一緒に行動していくことで、地域の健康度はより高まるのではないかと思いました。また一人一人の心に寄り添い、病気以外のその方の生活背景まで診て見守ることも大切だと知りました。
私の想像する未来では、各家庭にAIホームドクターが一台あり、突然のケガや緊急性のある病気の時はすぐに専門医や遠くに住んでいる家族に自動的に繋いで、病院へ運ぶシステムがあったら良いなと思います。一人でも助かる命が増えるからです。また未来では、地域の家庭医が、遠隔で各家庭から送られてくる日々のデータをチェックし訪問のタイミングを調整しているかもしれません。それから訪問困難な山奥の家でも、ドローンが調剤した薬を運び届ける日がもしかしたら来るかもしれません。しかし、将来AIが医療現場に入ってきても、人間に対してロボットが出来ることと、人間にしか出来ないことの医療があると私は考えます。例えば、患者さん一人一人に長期的に寄り添い、その人の望む治療・生き方を一緒に考えること、また患者さんに合った程良い距離を保ちながら、温かい言葉を掛けていくこと、それは人間にしかできないことです。このことが地域医療の大切な意義であると思います。
女学生の頃、バレーボールの選手だった私の曾祖母の口癖は「東京オリンピック、私は生きて見られるのかなあ。」でした。幸い、曾祖母の願いは叶い、デイサービスで友人と楽しくテレビでオリンピックを観戦することが出来ました。私は曾祖母をいつも支えてくださる大勢のスタッフさんに感謝の気持ちでいっぱいになりました。私は人が人を診ることの大切さを、私の家族から実感することが出来ました。
新型コロナウイルスのパンデミックのため、あたりまえの生活が、あたりまえに出来なくなった今、私は常に医療に携わる人々がいてくれるからこそ、前に進めるのではないかと感じています。このウイルスを通じて遺伝や進化の仕組み、そして生命の本質を理解しようとする長期的な研究も、より必要になると思います。また、そのような課題のある中で日本の人々が、どこでも平等に医療を受けられ、けして取り残される人が出ないように、私は進んで自分の出来る事から取り組み、医療に貢献していきたいです。