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医師会からのお知らせ

第26回健康と医療作文コンクール

佳作

「生まれてくることができなかった赤ちゃんが教えてくれたこと」
大村 向日葵
県立大学1年
私はこの春から、山梨県内の大学で看護学を学んでいる。私の夢は、助産師になることだ。命の誕生の瞬間に立ち合うことのできる素敵な職だ。そんな助産師を目指そうと思ったきっかけは母にある。私の母は流産を経験している。妹が一人いるが、本当は私と妹の間にもう一人いるはずだった。妊娠が分かってしばらくすると、母の体から出血が起こりおなかの中の赤ちゃんを流産した。責任感の強い母は、何の罪もない我が子を亡くした悔しさで、自分のことを責め続けただろう。また、妹を妊娠中も切迫早産で入院をし、絶対安静を強いられベッドの上で天井だけを見つめる日々が続いた。再び流産してしまったらどうしようという不安だけが大きくなっていったと母は言う。流産、切迫早産を経験し、身体的にも精神的にも辛かったとき、いつもそばには助産師さんがいて、母を何度も何度も励まし続けてくれたと言う。優しく見守り、そっと声をかけて励ましてくれた助産師さんに、感謝してもしきれないと言っていた。
そのような母の話を聞くと、世の中には様々な母親(女性)がいると思う。母のように流産や死産を経験する人、産みたくても産めずに不妊治療を行う人、逆に望まない妊娠をする人、生まれても障害を持った子を持つ人など、様々な問題を抱えている人がいると思う。誰ひとりと、全く同じ感情を持ち、同じ状況であるとは限らない。ひとりひとりみんな違う。だから、ひとりひとりのそれぞれに本気で向き合い援助をしていく。それができる助産師になりたいと思う。母を支えてくれたような、人の悲しみや不安な気持ちを図り、その気持ちにそっと寄り添える、そんな助産師に私はなりたい。
大学でいのちについて考える講義が何回かあった。その時からだが、「私も赤ちゃんに会いたかった」という感情が湧き出てきた。今までそのような気持ちになることはなかったが、今では会いたいと強く思う。一瞬で良いからその命を感じたかった。赤ちゃんは私に会うことなく、この世を去って行った。生まれてくることができなかった子を持った母親やその家族たちは、その悲しみを一生背負うことになる。私はそれを知っている。だからこそ、私にしかできない援助だってあるはずだ。そして、生まれてくることのできなかった赤ちゃんも、短いけれどその命に意味はあったのだと思う。今こうして私が助産師を目指そうとしていることや、出産が全て幸せなこととして見えるものでは無いこと、世の中には様々な感情をもって生きる母親(女性)がいることに気付かせてくれたのは、一足先に旅立った赤ちゃんだ。小さい小さい命でも、私には大きな夢を与えてくれた。意味の無い命など無いと言うが、本当にそうだと思う。
これから先、実習や仕事をしていく中でたくさんの壁にぶつかっていくだろう。しかしその時は、母を支えてくれた助産師さんと生まれてくることのできなかった赤ちゃんの存在を思い出そうと思う。私のことを赤ちゃんが一番応援してくれているように感じる。私より一足先に旅立った赤ちゃんだけど、私の心の中ではしっかりと生きている。そう思うと心があたたかい気持ちになる。
私、立派な助産師になるからね。見守っていてね。